2015/06/05

独占禁止法違反とコミュニケーション

最近は、どの企業もコンプライアンスを重視していると表明していますが、相変わらず談合事件が摘発されています。
私も以前勤務していた事務所で、コンプライアンスの講習会や独占禁止法違反事件に関与していましたが、効果があるのか少し疑問を持っていました。

談合がなくならない理由としては、


官製談合の場合、すなわち発注者側が何らかの必要性に迫られて、業者側に調整を指示する場合がありますが、業者側すると発注者から調整を依頼されれば、断り切れないという事情があります。

近年では、鉄道・運輸機構発注の北陸新幹線の融雪設備の設置工事をめぐる談合事件が例に挙げられます。
この工事は、発注者側が入札が不調になった場合の工事遅延リスクを心配して、調整を指示した事案ですので、そんなに悪質じゃない気がします。

談合のメンバーに上場会社が入っていれば、社内調査で談合が発覚すればリニエンシー申請をしてきますので、談合はすぐにばれてしまいます。
ある意味他の談合メンバーは気の毒なのですが、もちろん裁判所や公正取引委員会が理解を示すことは、ほとんどありません。

まれに、過失相殺を認める判決(後掲)がありますが、一般的には厳しいと考えておくことになるでしょう。後掲の判決以後は過失相殺を否定する判決が複数あります。



もう一つの場合としては、コミュニケーションの問題があります。

かなり昔の本ですが、ジョンブルックスの名著(ビルゲイツの愛読書)、「人と企業はどこで間違えるのか?」の第5章「コミュニケーション不全」にて、GEが談合等で摘発された事件が描かれていますが、関係者のコミュニケーションの行き違いが企業を間違った方向へ向かわせてしまったことについて詳細な分析がなされています。

例えば、上司が「コンプライアンスを遵守するように」といくら言っても、部下は、その指示を「ばれないようにやれ。」という指示だと受けとってしまうという感じです。
上司側の指示が、本気であるかどうかが上手く伝わらないというコミュニケーションの問題が指摘されています。

結構、昔の本なのに、説得力がある分析がなされているので、コンプライアンス担当者は一読してもよいのではないかと思います。

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大阪地方裁判所平成21年03月03日判決
西日本高速道路株式会社(旧日本道路公団)に関する談合事件
官製談合で過失相殺がみとられた業者側にとってのラストリゾート的重要判決

「(1)前記一認定事実によれば、〈1〉本件談合は、長年にわたって公団側と鋼橋工事会社側との協働により継続されてきた一連の入札談合の一つであること、〈2〉平成五年以前には、公団の現職理事自らが割付けを行うなど重要な役割を担い、入札談合が継続的に行われていたこと、〈3〉その後、官製談合に対する社会の非難の声が高まったことから、平成五年以降は、かかる非難を回避するために、公団の現職理事が直接割付けを行うことは止め、鋼橋工事会社に再就職した公団元職員が割付けを行い、公団の現職理事がその割付表を受け取って自ら保管するか又は部下に保管させて、その割付けを事実上容認していたこと、〈4〉公団側の担当理事は、有料道路部又は高速道路部担当理事であり、高速自動車国道及び一般自動車国道の建設に関する工事の理事説明に参加する理事であるところ、公団の内規によって、各支社局は、理事説明で理事の承認を得ない限り、工事を発注できないこととなっており、一連の入札談合を容認していた担当理事らは、工事発注についての事実上の決裁権限を有していたこと、〈5〉本件談合を容認していた乙山理事及び丙川理事は、高速道路又は一般道路の建設に関する事務をつかさどる部門である有料道路部又は高速道路部の理事であり、本件工事の理事説明における承認権限を有し、各支社局長に対し、工事の施工方法や工事費等の適否を判断して指示するなどの任務を有していたこと、〈6〉公団は、組織内の人事構造を維持するために一定の職員を早期退職させて、受注企業や関連企業等に再就職させる必要があったところ、このような入札談合による割付け受注業者に対して、暗黙裏に、その事実上の見返りとして再就職先を確保するという仕組みを維持することによって、高い給料を支払わなければならない職員を受け入れる企業であればあるほど高い受注を認めるという形で再就職先を確保し、人事を円滑に循環させるという組織全体にとっても無形の利益を得ていたこと、〈7〉公団の幹部職員であった乙山理事及び丙川理事の認識としても、工事の鋼橋工事各社がなした入札談合を容認することで、自己も含めた公団職員の再就職先を確保することを主たる目的として割付表を受け取っていたこと、〈8〉乙山理事ら公団幹部職員が割付表を受け取ることによって、公団が割付けを容認したとして、受注予定企業以外の鋼橋工事各社側からの反対を抑止することが可能であったことが認められる。そうすると、乙山理事ら公団幹部職員らの行為は、入札談合を援助、助長するものであり、一連の入札談合は、同人らの個人的な利益のためというにとどまらず、公団自体の利益をも図る目的で、長年にわたって、およそ組織的・制度的に行われてきたものであるといわなければならない。 
上記の事情に照らせば、〈1〉 本件談合を含めた一連の入札談合は、公団と鋼橋工事各社が協働し、いわば「持ちつ持たれつの関係」に基づき、長年継続されてきた構造的なものであり、〈2〉 公団発注の鋼橋上部工事に関する業務を統括する理事であり、工事発注において事実上の決裁権限を有していた公団幹部職員において、割付表を受領し、これを部下に保管させるなどしており、談合を防止し得たにもかかわらず、これをしないばかりか、結果として、職員の再就職先を確保するという無形の利益を得る目的で、談合を容認し、助長することとなっていたのであるから、本件談合の責任を一方的に被告にのみ負わせるのは衡平上相当でないというべきであり、公団と被告ら鋼橋工事各社には、損害の公平な分担を図るべき事情があるというべきである。公共工事の入札談合による落札が違法行為であることは明らかであるところ、本件談合に至る経緯、目的、公団及び被告が受ける利益並びに被る損失、それぞれの関与者の役割、関与の程度等本件に顕れた諸般の事情を総合考慮するとも、公団の過失割合としては二割と認めるのが相当である。(2)なお、原告は、被告は乙山理事らと共謀して本件談合を行った共同不法行為者であり、公団はその被害者であるから、公団と被告との間で過失相殺をすべきではない旨主張するが、上記(1)のとおり、本件談合には工事発注について事実上の決定権を有する公団幹部職員が関与し、同人らは、公団全体の利益を図る意思をも有していたのであるから、公団が一方的な被害者であると認めるのは相当ではなく、上記原告の主張は採用できない。(3)一個の損害賠償請求権のうちの一部が訴訟上請求されている場合に、過失相殺をするにあたっては、損害の全額から過失割合による減額をし、その残額が請求額を超えないときは右残額を認容し、残額が請求額を超えるときは請求の全額を認容することができるものと解すべきであるところ(最高裁判所昭和四八年四月五日第一小法廷判決・民集二七巻三号四一九頁)、これを本件についてみると、過失相殺後の残額は、一億〇一二二万〇三三八円に八割を乗じた八〇九七万六二七〇円となり、原告の請求額である七〇八五万四二三七円を超えることとなるから、請求の全額を認容することができるものというべきである。」

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