開発型不動産証券化案件―建設業者の立場から
ご承知のとおり、リーマンショック・金融危機後には、開発型を含む不動産証券化案件は、激減しました。
アベノミクスやオリンピックの効果か、近年、不動産証券化案件も増加しており、さらに不動産特定共同事業法の改正があったため、開発型不動産証券化案件もこれから件数が増加する可能性があります。
ただ、2007年~2008年の金融危機及びリーマンショックによって、多数の新興・中堅不動産デベロッパーが破綻したため、仕掛物件の請負代金債権が毀損されることによって、甚大な被害を被り、いまなお、大きなトラウマを抱えているゼネコンにとって、SPCを利用した開発型不動産証券化案件などは「もうやりたくない」、というのが本音だと思います。
ですが、いわゆる「毒まんじゅう」が含まれている可能性があっても、お腹が空けば食べなくてはいけないという現実があり、全く受注しないというわけにはいけない。
もちろん、現時点では、アベノミクス、東北地方の震災復興やオリンピックに関連して、受注が満たされていますが、やはりその後は、国内では厳しい受注環境になることは目に見えています。
そのような中で、改正不動産特定共同事業法に基づき実物不動産を保有できるようになったSPCがらみの開発案件はこれからチャレンジをしなくてはいけない種類の案件になってくる可能性があります。
ゼネコンの請負代金確保・リスク管理について
改正不動産特定共同事業法に実物不動産を保有できるようになったSPC(特定目的会社)から受注する場合には、やはりかなりリスク管理に注意が必要です。
【与信・信用力】
発注者は、SPCですので、そもそも与信も信用力も全くありません。アレンジャー、プロジェクトマネージャー、アセットマネージャーが信用できる大手デベロッパー・その関連会社であれば、SPCがデフォルトを起こすとレピュテーションリスクがあることもあり、ある程度信用はできると思います。
なお、SPC案件では、「倒産隔離」がされていると思っている方もいますが、それはあくまで完成建物の引渡しをした後の話です。工事途中において、倒産隔離は全く関係がありません。倒産隔離をしても請負代金の原資がなければ意味がありません。「倒産隔離」というマジックワードに騙されないようにしましょう。
この観点からも、やはりSPCの資金計画の具体的内容を把握しておくのは必須だとは思います。もちろん、資金計画について、ゼネコンに説明しない場合も多いですが、とにかく情報が命ですのでしつこく聴取をし、資料をもらう必要があります。
【支払方法・スケジュール】
次は支払方法・スケジュールがリスク管理には重要です。一番いいのは「全額前払い」ですが、通常はそんな発注者はいません。そうすると「出来高払い」がベストになりますが、これもなかなか難しいでしょう。そうすると、いわゆる「テンテンパー」、「テンキュー」、「ゼロヒャク」などということになってきます。こうなるとかなり危ないです。最悪なのは、「ゼロヒャク」で物件先引渡の場合です。こうなると、請負代金が支払われるのを祈るしかありません。
ここはとにかく、有利な条件にしていくよう粘り強く交渉していく必要がありますが、そもそも入札要項で提示されているので、残念ながら、交渉の余地がない場合も多いです。
【開発スキーム】
開発型不動産証券化スキームは、案件毎にかなり異なっており、リスクの大きさや注意点も大きく違います。
例えば、ストラクチャー自体が異なりますし、開発対象土地が「借地」か否か(敷地の権利)、完成建物を転売するかテナントに賃貸する目的か、賃貸の場合は、テナントがシングルテナントか、不特定多数のテナントかで、リスクがかなり異なります(案件が頓挫した場合の処理・手順が違ってくるからです)。
この開発型不動産証券化スキーム毎のリスク評価は、冷静に検討すれば、あんまり難しいことではないのですが、関係当事者が多かったり、複雑なスキームによって適切な評価ができていない事例が散見されます。
【担保】
敷地に対する商事留置権は、最近になって高裁レベルで否定的な判決が複数出ており、執行センターの実務も否定的です。
私の知る限り、最高裁の判断はまだ出ていないのですが、もはや、ゼネコンにとって重要な商事留置権は、あまり期待できない状況になってきています。
私個人としては、高裁の判決の商事留置権を否定する根拠ないし抵当権者に劣後させる根拠は説得力がなく、法律の規定のとおり、敷地の留置権を認めるべきだと考えています。
他方、予め不動産先取特権を登記したりするのも、かなり困難ですので、担保は取れないことを前提にリスクを見極めることが重要になります。
稀に敷地にレンダーの抵当権がない場合がありますが、そういうときは、思い切って敷地を担保に下さい、とお願いすることをお薦め致します。
【契約条件】
SPC案件ですと、通常の約款だけでなく、輸入・翻訳物の契約が使用される場合があり、その解釈を巡り、種々の紛争が生じます。
また、敷地取得代金を融資したレンダーとも様々な契約の締結を要求されます。
とにかく、SPC案件は、通常の工事より、ゼネコンにとって厳しい契約条件を提示されることがあるので、ここもしつこく交渉して、リスクの軽減に努める必要があります。
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