2014/04/02

4 デューデリジェンス

 デューデリジェンスとは、対象会社の財務内容やリスクを適正に把握するために事前におこなう調査活動を意味します。

 最近では、デューデリジェンスが何のことかわからない人は、あまりいないのですが、概ね以下の種類に分類されます。
 以下の種類を全てするわけではなく、一般的には財務・税務と法務くらいしかやらないことも多いですし、法務と人事・労務・不動産を一括して弁護士が担当することも多いといえます。

【種類】
  • 法務デューデリジェンス
  • 財務・税務デューデリジェンス
  • ビジネスデューデリジェンス
  • 人事・労務デューデリジェンス
  • 年金デューデリジェンス
  • 環境デューデリジェンス
  • 知財・ITデューデリジェンス
  • 不動産デューデリジェンス

【チーム】
 デューデリジェンスを誰に依頼すればよいか、という点については、
①法務デューデリジェンスについては、やはり顧問の弁護士に依頼するのが一番安心です。顧問の弁護士がやったことがないとしても、ある程度経験がある弁護士であれば、やればできます。
 
 大きな案件だとやはり人手が足りなくて難しい場合もありますので、比較的大手の法律事務所に依頼するのが安心ですが、費用は少し必要になるかも知れません。
 ただ、大手法律事務所でも、タイムチャージが2万円前後で、腕前がいい弁護士もいますので、意外にリーズナブルともいえます。

 報酬・費用は、案件ベースかタイムチャージのどちらかですが、やはり案件の規模と予算次第ですので、まずは弁護士に相談することをお勧めします。
私の報酬・費用は、規模や成果物のご希望によって、案件ベースだと50万円~300万円くらいになります(タイムチャージだと1時間5万円でかなり高い方です)。


②財務は、デューデリジェンスを扱っている事務所が多いので、ネットで探せば見付かりますし、弁護士に紹介を依頼してもいいと思います。
 法務デューデリジェンスを担当する弁護士の立場からすると、何回か案件を一緒に担当した会計士や税理士だとやりやすいともいえます。


③ビジネスデューデリジェンスは、かなり大きい会社を買収する際に必要になりますが、必須でもありません。


④人事・労務・年金デューデリジェンスは、中規模以上だと必要になってきますので、社会保険労務士等に依頼します。小規模案件だと弁護士が少し調査することに留めるのが通常です。


⑤環境・IT・不動産・知財デューデリジェンスは必要に応じて実施しますが、小規模な案件ですと、弁護士が、環境規制、不動産の登記簿や賃貸契約等を登録済みの知財、業務に使用している著作物、ソフトウェアのライセンスなどを調査・確認するに留めます。
 本格的なITデューデリジェンスは、合併などにより、システムを統合する際には最も重要になりますが、小規模、中規模案件ではそんなに重要ではないといえます。
 知財デューデリジェンスも対象会社の業務に知財が重要な役割を果たしている場合には、弁理士等に依頼するとよいと思います。 


【手順・流れ】
 具体的な手順・流れについては、以下の①~④のような感じですが、平行してやることも多いので、かなり忙しい状況になります。

① インフォメーションリクエスト(必要な資料のリスト)
② 独自調査(公開情報・調査会社)
③ マネジメントインタビュー(代表者、役員等と面談)
④ レポート(依頼者に報告) 


【目的】
 最近は、デューデリジェンスを実施するのが、なんとなく普通になってきてますので、そもそも、なぜ、デューデリジェンスをやるのかについて疑問に思わなくなってきています。そこで簡単にまとめておきますが、概ね以下の①~③が主たる目的になります。

①問題点を把握するという目的、すなわちリスクを把握するのは当然です。そして
 (ⅰ)把握した問題点やリスクを最終契約に反映し
 (ⅱ)買収金額の調整をします。

②上場企業の場合、株主から、買収側の役員の責任を問われないように、慎重に案件を進めたことを、後で容易に立証できるようにするという目的も結構重要です。
 全くデューデリジェンスもしないで、後で問題が起きた場合には、役員の方は言い訳がしにくいでしょう。

③最後に最も重要な目的として、デューデリジェンスで得た情報を、買収後のスムーズな統合に生かすという目的があります。例えば、就業規則に問題があった場合には、買収後に変更することができる等、スムーズな対応が可能になります。 

 実際のところ、買収側・対象会社側の担当者の中には「弁護士や会計士が来て、パラパラ資料を読んで、ちょっと質問して、帰っていっただけだなあ…」という感想を持つ方も多いのですが、一応レポートを書いていますし、①ないし③の意味があるのです。
 デューデリジェンスによって致命的な問題が見付かるケースもありますが、そこまで大きな問題が見付かることは稀ですので(致命的な問題があれば対象会社は既に倒産していますし、魅力的な会社には見えないはずです)、買収側がオーナー企業の場合は、費用対効果を考え、オーナー・経営者の決断で、基本協定締結もデューデリジェンスもせずに、いきなり買収するというのも有り得るでしょう。 


【報告書】
 デューデリジェンスが終わると、報告書を作成・提出します。
報告書には、決まった書式がないのですが、私が担当した法務デューデリジェンスの目次の例を挙げますと以下のとおりになります。 

  目 次(例)  

A.はじめに

B.報告の概要及び対応案
 1.報告の概要
 2.意見及び対応案

C.調査報告
 1.一般的事項
   1.1 概要
   1.2 株主総会
   1.3 取締役会
   1.4 株式
   1.5 その他
 2.法規制・許認可
 3.契約関係(販売先・顧客)
   3.1 概要
   3.2 問題点等
 4.契約関係(仕入先・外注)
   4.1 概要
   4.2 問題点等
 5.会社内部(従業員)
   5.1 概要
   5.2 正規雇用関係
   5.3 臨時雇用関係
   5.4 退職者
   5.5 賃金・残業
   5.6 就業規則及び届出
   5.7 懲戒処分・その他
 6.知的財産権
   6.1 特許、商標、意匠及び実用新案
   6.2 著作権
   6.3 営業秘密
 7.不動産
   7.1 概要
   7.2 賃貸借契約
 8.融資
 9.環境
  10.紛争
   10.1 法的紛争
   10.2 その他
  11.その他(関連会社及び関連契約)


D.資料
〈法務デュ-デリジェンスの実務〉

 法務デュ-デリジェンスは、「インフォメーションリクエスト(提供要請資料リスト)」を作成するところから始まります。
 確かに、こういうものには「ひな形」はあるのですが、やはり、対象会社の事業内容・特徴に合わせて、修正が必要になってきます。

 ①対象会社の仕入先はどこか、どういう性質のものを調達しているのか
 ②納入先・クライアントはどこか。何を納入・提供しているのか
 ③どういう業種・業態か
 これらを把握していなければ、調査対象となる資料をリストアップすることはできません。
 
 法務デュ-デリジェンスの依頼を受けた直後から、対象会社の事業内容等をすぐ検討して、インフォメーションリクエストを調整していきます。
  私の場合、時間に余裕がないときには、クライアントから依頼を受けてから15分~30分程度で作成しますが、通常はもう少し時間をかけて作成した方が良いかと思います。同時に、マネジメントインタビューにおける質問内容や、想定される回答や回答に基づく対応策なども検討しはじめます。
 
対象会社からの資料は、
 ①一括して提供される場合
 ②五月雨式に提供される場合
とがありますが、一般的には後者です。

 資料をデータがコピーで提供される場合は、マネジメントインタビューの前に、資料の内容を検討することができ、それに基づいての質問内容を調整できますが、資料提供が終わらない状況で、資料の確認とマネジメントインタビューが同日に実施される場合もあります。
 こういうことはよくありますので、やはり対象会社のHPや外部の調査会社から得た情報を元に想像力を働かせ、質問内容を慎重に準備していく必要があります。対象会社から資料を提供されることになりますが、その分量・内容は、まちまちです。

 例えば、
 ・株主総会議事録は? →ありません。
 ・従業員との雇用契約と就業規則は? →作ってませんね。
 ・委託先との契約は? →口頭です。
 という正直な会社があります。
  
 このように、ほとんど資料がない場合には、当該資料が存在しないか、不備である場合に、どのような法的リスクがあるかを検討し、その内容を説明したり、M&A後に、その問題を解決するための方法をレポートに記載することになります。

 例えば、株主総会議事録がない場合、大きな問題だと感じてしまうこともありそうですが、実際は各種議事録がないというのはよくある話で、株主構成等によっては問題にならないケースも多いです(弁護士としては法的な問題がないとはいえませんが、事実上問題にならないという意味です)。

 要するに、問題の重大性を将来の紛争の可能性を見据えて、適切に瑕疵を評価することが重要になってきます。

 反対に、対象会社がきちっと準備をしたため、提供資料が膨大な場合もあります。とりわけ、取引先との契約書類の分量が多い場合です。
 こちらから、過去数年分を全部提供してほしいと要請しておいて、何なのですが、全部検討する必要があるか否を判断することが重要になります。

 一番簡単なのは、取引に使用する「ひな形」のみを検討する方法や、取引金額の多寡により対象を選別する方法です。 
 ただ、「ひな形」を全種類について検討すると言っても、取引先との契約について、対象会社のひな形で、すべての契約が締結されていればよいのですが、現実には取引先から提示されたひな形を使用する場合もあります。

 そうすると、取引先毎に契約書の内容が異なってくることになり、結局かなりの種類の契約書を検討する必要性が生じます。
 そのような場合には、取引金額がいくら以上であるとか線引をして、絞り込んで契約書類を検討することになります。

 難しいのは取引金額だけは絞りきれない点でして、そのあたりは、まさに経験が重要になってきます。
 ただ、経験と言っても、失敗した経験が多い弁護士はあまり居ないので、失敗によるフィードバックを受けることができません。単純に経験が多ければ良いとは言えませんね。

 私の場合は心配性なので、提供資料はざっと全部見ることにしています。

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